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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)329号 判決 1998年5月19日

東京都千代田区神田駿河台1丁目6番地

原告

株式会社ジェーシービー

代表者代表取締役

池内正昭

訴訟代理人弁理士

小島高城郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

加園英明

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第19937号事件について平成9年10月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成4年3月23日、「Passport Map」の欧文字と「パスポートマップ」の片仮名文字とを二段に書してなる商標(以下「本願商標」という。)につき、第26類(平成3年政令第299号による改正前のもの)「印刷物(文房具類に属するものを除く。)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品として商標登録出願をしたところ、平成5年8月3日拒絶査定を受けたので、同年10月12日審判を請求し、平成5年審判第19937号事件として審理された結果、平成9年10月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年11月17日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本願商標の構成、指定商品及び登録出願日は前項記載のとおりである。

(2)  これに対し、登録第1336963号商標(以下「引用商標」という。)は、「パスポート」の片仮名文字を書してなり、昭和42年11月22日に登録出願、第26類(平成3年政令第299号による改正前のもの)「雑誌」を指定商品として昭和53年7月21日に登録されたものであるが、その後、昭和63年8月24日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

(3)  そこで、本願商標と引用商標との類否について判断するに、本願商標は、前記のとおり「Passport Map」及び「パスポートマップ」の文字よりなるところ、該文字は、「Passport」「パスポート」の文字と「Map」「マップ」の文字の組合せよりなるものと理解されるものであって、請求人(出願人)の主張するごとく「パスポートマップ」の一連の称呼を生ずることを否定するものではないが、該文字は全体として親しまれた固有の観念を有するものとはいい得ないものであり、かつ、該文字中後半部の「Map」「マップ」の文字は、「地図」を取り扱う業界において、商品「地図」を表示するための語として普通に使用されている事実がある。そうとすれば、本願商標をその指定商品中「地図」に使用するときは、「Map」「マップ」の文字は単に商品の品質を表示する語にすぎないものと認められるから、本願商標中自他商品の識別標識としての機能を果たす部分は前半部の「Passport」「パスポート」の文字部分にあるものと判断するのが相当である。したがって、本願商標は、該文字部分に相応して「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念をも生ずるものといわなければならない。

これに対し、引用商標は、その構成前記のとおりであるから、「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念が生ずるものである。

してみれば、本願商標と引用商標とは、外観については差異があるとしても、両者は、「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念を共通にする点において相紛れるおそれのある類似の商標であり、かつ、本願商標の指定商品中の「地図」と引用商標の指定商品「雑誌」とは販売店を共通にする類似の商品であるから、本願商標につき、商標法4条1項11号に該当するとした原査定は、妥当であって取り消す限りではない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、本願商標中自他商品の識別標識としての機能を果たす部分は、前半部の「Passport」「パスポート」の文字部分にあり、該文字部分に相応して「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念をも生ずるとした点、本願商標と引用商標とは、「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念を共通にする点において相紛れるおそれのある類似の商標であるとした点、及び、本願商標につき、商標法4条1項11号に該当するとした原査定は妥当であるとした点は争い、その余は認める。

審決は、本願商標と引用商標との類否判断を誤ったものである。

(1)  審決は、本願商標を構成する「Passport Map」「パスポートマップ」の文字は、全体として親しまれた固有の観念を有するものではないとして、後半部の「Map」「マップ」を分離して、引用商標との類否を判断している。

しかし、「Passport Map」「パスポートマップ」の語は、常識的に意味をなさない語であり、いわゆる造語商標であるから、全体として親しまれた固有の観念を有しないことは当然である。そして、本願商標の片仮名部分は「パスポートマップ」と一連に書してなることに加え、本願商標は、全体として固有の観念を有しない造語商標であるから、分離観察、要部観察に馴染まないものである。

また、本願商標は、外観上まとまりよく、一体的に構成されており、商標として非常にスマートな構成態様であって、称呼も冗長でなく、かつ、よどみなく一連に称呼し得るのであるから、分離観察と相容れないものである。

(2)  審決の判断は、従来の特許庁の見解である多くの審決例にそぐわないものである。すなわち、甲第6号証、甲第30号証の1・2、甲第31号証の1ないし3、甲第32、第33号証の各1・2により明らかなとおり、本願商標と表示態様が共通の商標について、一連に称呼し得るなどとして先願商標と非類似であると判断している。

上記のとおりであるから、審決が、本願商標は「パスポート」の称呼、観念が生ずるとした認定は誤りであり、したがって、引用商標とは類似しているとした判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1及び2は認める。同3は争う。

審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  本願商標の欧文字部分において前半の「Passport」と後半の「Map」の各文字は、それぞれ頭文字を大文字で表し、その他の構成文字を小文字で表すとともに、両者の間には1文字程度の間隔をあけて配置されている。そして、本願商標が「旅券」を意味する英語又は外来語の「Passport」「パスポート」と「地図」を意味する英語又は外来語の「Map」「マップ」との組合せよりなるものと理解されることは、いずれも一般に親しまれた英語、外来語であることより、容易に認め得るところである。

また、本願商標は、全体として親しまれた固有の観念を有しないものであり、これを常に一体のものとして観察しなければならないものでもない。

さらに、本願商標は、構成中の「Map」「マップ」の文字が「地図」を意味する語として一般に親しまれているのみならず、本願の指定商品中の「地図」「地図帳」を表示するものとして普通に使用されているところである。

そして、商標は、自他商品の識別機能を果たすものとして商品に使用されるのであるから、商標中に当該指定商品の品質等を表示する部分が含まれているときは、その部分は通常、取引者、需要者に当該指定商品の品質等を表示したにすぎないものと理解され、出所表示標識として機能しないというべきである。

以上のことよりすれば、本願商標を構成する文字中、後半の「Map」「マップ」の部分は、商品の品質等を表示するにすぎないものと認識されるにとどまり、自他商品の識別機能を果たし得ないものであって、本願商標に接する取引者、需要者は、構成中の見やすく、印象に残りやすい語頭部に位置する「Passport」「パスポート」の文字部分に注意を強く惹きつけられ、該文字部分をもって自他商品を識別するものとみるべきである。

そうとすると、本願商標は、その構成全体より生ずる一連の称呼のほかに、構成中の「Passport」「パスポート」の部分に相応する「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念をも生ずるものというべきである。

したがって、本願商標については、これを分離して観察すべき特段の事情が存するものである。

(2)  原告の挙げた審決例は、いずれもそれぞれの指定商品との関係において要部観察の必要性のないもので、本件と事案を異にするから、両者を同一に論ずることはできず、挙示する審決例に基づく原告の主張は妥当ではない。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  引用商標の構成、指定商品、出願・登録関係が審決認定のとおりであること、本願商標を構成する「Passport Map」「パスポートマップ」の文字は、「Passport」「パスポート」の文字と「Map」「マップ」の文字の組合せよりなるものと理解されるものであるが、全体として親しまれた固有の観念を有するものとはいい得ないこと、「Map」「マップ」の文字は、「地図」を取り扱う業界において、商品「地図」を表示するための語として普通に使用されており、本願商標をその指定商品中「地図」に使用するときは、「Map」「マップ」の文字は単に商品の品質を表示する語にすぎないものと認められること、引用商標は、「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念が生ずるものであること、本願商標と引用商標とは外観において差異があること、本願商標の指定商品中の「地図」と引用商標の指定商品「雑誌」とは販売店を共通にする類似の商品であることは、当事者間に争いがない。

(2)  ところで、本願商標を構成する「Passport Map」「パスポートマップ」の文字は、「旅券」を意味する「Passport」「パスポート」の文字と、「地図」を意味する「Map」「マップ」の文字の組合せよりなるものと理解され、全体として親しまれた固有の観念を有するものではないこと、「Passport Map」の前半部の「Passport」と後半部の「Map」の各文字は、それぞれの頭文字を大文字で表し、その他の構成を小文字で表すとともに、両者の間には1文字程度の間隔をあけて配置されており、本願商標全体の中にあって、上記各文字の独自性が失われているわけではないこと、上記のとおり、「Map」「マップ」の文字は、商品「地図」を表示するための語として普通に使用されており、本願商標をその指定商品中「地図」に使用するときは、「Map」「マップ」の文字は単に商品の品質を表示する語にすぎないものと認められること、他方、「Passport」「パスポート」の文字は、本願商標の指定商品とは直接的な関連性を有せず、本願商標に接した取引者、需要者に対し、「Map」「マップ」の文字より強い印象を与えるものと認められること、「Passport」「パスポート」の文字は、本願商標の構成中の見やすく、印象に残りやすい語頭部に位置していることを総合すると、本願商標中「Passport」「パスポート」の文字部分に自他商品を識別する機能が存するものと認めるのが相当である。

したがって、本願商標は、その構成全体より「パスポートマップ」の一連の称呼を生ずる(この点は当事者間に争いがない。)ほかに、「Passport」「パスポート」の文字部分に相応する「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念をも生ずるものというべきであり、本願商標と引用商標とは、「パスポート」(パスポート、旅券)の称呼、観念を共通にする点において相紛れるおそれのある類似の商標といわざるを得ない。

(2)  原告は、請求の原因3(1)掲記の理由により、本願商標は分離観察、要部観察が相容れないものである旨主張するが、上記(1)に認定、説示したところに照らして採用できない。

また、原告は、審決の判断は従来の審決例にそぐわない旨主張する(請求の原因3(2))ので、この点について検討する。

例えば、成立に争いのない甲第30号証の1・2によれば、昭和60年審判第15252号の審決において、「CHAMP CLUB」及び「チャンプ クラブ」の文字を二段に書してなる出願商標(指定商品 17類「被服、その他本類に属する商品」につき、「前半の「CHAMP」「チャンプ」の文字と後半の「CLUB」「クラブ」の文字とは外観上まとまりよく一体的に構成され、特に軽重の差を見出すことはできないものである。また、これより生ずると認められる「チャンプクラブ」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものであり、他に構成中の「CHAMP」「チャンプ」の文字のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見出せない。」として、「チャンプクラブ」の称呼のみを生ずるものと認められる、との判断が示されていることが認められる。また、成立に争いのない甲第31号証の1ないし3によれば、昭和59年審判第13606号の審決及び登録異議の決定において、「CAMPUS GAL」の欧文字と「キャンパスギャル」の片仮名文字を二段に書してなる出願商標(指定商品25類「紙類、文房具類」)につき、「前半の「CAMPUS」「キャンパス」の文字と、後半の「GAL」「ギャル」の文字とは外観上まとまりよく一体的に構成され、観念上も全体として「女子学生」の如き一つの意味合を把握することのできるものである。また、これより生ずると認められる「キャンパスギャル」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものであり、他に構成中の「CAMPUS」「キャンパス」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見出せない。」として、「キャンパスギャル」の称呼のみが生ずるものと認められる、との判断が示されていることが認められる。

上記二例についてみると、いずれもその商標中に指定商品に関連する語や指定商品の品質や形状を表示する語を含まないものであり、その点で、指定商品中「地図」に使用するときは、「Map」「マップ」の文字は商品の品質を表示する語にすぎないものと認められる本願商標とは相違するのであって、欧文字と片仮名文字を二段に書してなる表示態様の点で本願商標と共通するからといって、称呼の関係でも本願商標と同様に扱わなければならないということにはならない。

その他、甲第6号証、甲第32、第33号証の各1・2をみても、審決が本願商標の称呼につき示した判断が、従前の審決例にそぐわないものとは認められない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、本願商標につき、商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成10年4月9日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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